東京高等裁判所 昭和48年(ネ)504号・昭48年(ネ)1871号 判決
四、つぎに、控訴人は、右保証金返還請求債権は当事者間の特約により本件賃貸借終了の前後を問わず譲渡を禁止されていたと主張する。
≪証拠≫によると、その第六条に「保証金預り証は、甲(控訴人)の承諾を得ないでこれを質入または譲渡することができない。」と定められていることが認められるところ、≪証拠≫によると、控訴人は、訴外富士物産に対するのと同様の売場を同訴外会社の他約一八〇店に賃貸してそれぞれからほぼ同様の多額の保証金を取得している関係上、その多数の賃借権者が自由に右保証金預り証の受渡によって保証金返還請求債権を他に質入または譲渡などをした場合にはやがてはこれが第三者間に転々と移転することが予想され、かくては控訴人としても賃貸借終了時において真実の保証金返還請求権者の判定や、保証金と差引精算すべき場合の措置などに複雑な問題の生ずることが懸念されるので、これらの事態の生起することをさけるため、本件の場合に限らず他の賃借人との間でも右保証金返還請求債権の質入および譲渡を禁止することを特約しているものであることが認められ、他にこの認定に反する証拠はない。以上認定の事実関係に前示契約条項中、「預り証は………質入又は譲渡することができない。」と表現されていることおよび同契約書第五条によれば、本件保証金は主として本件賃貸借の存続中に発生すべき賃借人の債務を担保し、契約終了時にそれらの債務相当金額を右保証金から差し引き残額を賃借人に返還すれば足りるものであることが認められることなどを合わせ考えると、前記賃貸借契約書第六条の定めは、賃貸借終了後保証金返還請求債権が現実に発生したのちにおいて、正規の指名債権譲渡の方式によってなされたその譲渡までを禁止する趣旨のものではないと認めるのが相当である。
(畔上 上野正 唐松)